
1.オムニチャネルとは何か?
オムニチャネルとは、店舗やイベント、ネットやモバイルなどのチャネルを問わず、あらゆる場所でお客さまと接点をもとうとする考え方・戦略のことだ。
その名の通り「全てのチャネルを統合連携させた状態で顧客に対してアプローチする」というのがオムニチャネルという戦略の概要となっている。
オムニチャネルで使われるチャネルには、
・店舗
・ネット(通販サイト、ファンサイト、コーポレートサイトなど)
・カタログ
・モバイル
・SNS
・マスメディア
・コールセンター
・屋外広告
などがある。ネット、リアルに関わらず、あらゆるチャネルでお客さまとの接点をもつのがオムニチャネルだ。
オムニチャネルの目的の1つは、顧客満足度の向上だ。実店舗、ECサイト、カタログ通販、ソーシャルメディアなどの複数のチャネルをシームレスに連携させ、「いつでも、どこでも同じように利用できる」形を作ることで、顧客にとってより便利で利用しやすいサービスを実現できると考えられている。
2.O2Oとオムニチャネルを混同
前述のチャネルの違いとは少々切り口が異なりますが、しばしばオムニチャネルと混同されがちな言葉にO2O(オーツーオー)がある。O2Oは「Online to Offline」の略で、一言でいうとECサイトなどのオンラインから実店舗などのオフラインに顧客を送るための施策だ。
たとえば、ECサイト上で実店舗の割引クーポンを配布したり、スマホのGPS機能を利用してクーポンを配信したりして、オンラインで繋がっている顧客に実店舗へ足を運んでもらうように促す。かつて、O2Oそれ自体が1つの戦略のように捉えられていた時期があった。しかし現在では、オムニチャネルという大きな戦略の中の1つの対策としてO2O施策が用いられることが多くなっている。
具体的には
・会員証やDMをスマホアプリに集約、お客さまへのサービス充実を図る
・お客さまの動向を分析する
・ネット上のお客さまにクーポンやポイントを付与して店舗に訪れてもらう
などがある。
それに対してオムニチャネルは実店舗やオンラインストアなど、販売・流通のあらゆるチャネルを統合して、総合販売チャネルをつくるのが特徴だ。その結果、どの販売チャネルからも同じように商品を購入できるようになる。
店舗とウェブサイトで在庫情報・会員ID・物流を統合し、シームレスな購買体験を提供できるのがオムニチャネルなのだ。
とはいえ現状では、多くの企業がO2Oとオムニチャネルを区別していません。
O2Oは、クーポンやポイントによって来店・購入の回数が増えて、スピーディに新しいお客さまを獲得できるという結果が出ている。一方で、その後の客単価アップ、リピーター獲得まではつながっていないのが大きな課題だ。
多くの企業は新しいお客さまよりも「今までのお客さまをどのように囲い込むか」を課題と考えている。そのため、リピーター獲得は難しいO2Oでは、限界があるのだ。
そのため、O2Oよりもオムニチャネルの方が、今いるお客さまの囲い込みに適している。
小売業や外食業では、たくさんのお客さまを集める時代から、自社に適したお客さまを選んで定着してもらう時代へと進んでいる。その先に、オムニチャネルの実績を生かして、より精度が高い新客獲得方法がO2Oで展開され、新たなO2Oでさらに高い利益率をもたらす時代が訪れることになるだろう。
3.なぜ企業はオムニチャネル化を進めるのか
ここまでで、オムニチャネルがどのような考え方なのかを具体的に紹介してきた。では、なぜ今、大手企業を中心としてオムニチャネル化が進められているのでしょう?ここではオムニチャネル化によって得られるメリットについて考えてみよう。
オムニチャネル化がもたらす効果
オムニチャネルがもたらす効果として、「チャネル間のシナジー効果によって、それぞれのチャネルが持つ潜在的な力が引き上げられる」ということが挙げられます。オムニチャネル戦略によって複数のチャネルをよりシームレスに統合すれば、顧客にとっての利便性を向上することが可能だ。サービスが便利になれば利用する顧客が増え、ひいては中長期的な顧客の囲い込みに繋げることができる。
そもそも、オムニチャネルという概念が広まった背景には、スマートフォンを中心としたデジタルデバイスや、ネットワークの飛躍的な進化があった。こうした進化は私たちの生活を便利なものにしてくれましたが、一方で従来実店舗を中心に売上を作ってきた企業にとっては、それまで考えもしなかったビジネス上の強力なライバルが出現した瞬間でもあったのだ。特に、「ECシフト」とも呼ばれるEC業界の急激な躍進は百貨店などの実店舗ベースの小売業界に多大な影響を及ぼした。いくつもの大手百貨店の店舗が次々に閉店に追い込まれたのは、記憶に新しいところだろう。
こうした脅威に立ち向かうため、企業はマルチチャネル化やクロスチャネル化に取り組んできた。しかし、マルチチャネルやクロスチャネルだけでは、顧客に対して有力なメリットを打ち出しきれません。そのため、複数のチャネルを連携させて顧客を囲い込むことで、個々のチャネル単体で対策を行うよりも大きな効果を得ることができるオムニチャネルが、近年注目されているのだ。
4.なぜオムニチャネルが注目されるように?
オムニチャネルが注目されるようになった要因として、スマホとSNSの普及がある。これにより消費者の行動が大きく変わった。
今や私たちは、商品の検討から購入まで、すべてをスマホから済ませることができる。店舗の「ショールーミング化」が叫ばれてから久しいが、スマホの普及によってそれはさらに加速している。その場で最安値の店舗や、SNSで口コミを検索することが当たり前になり、様々な面から一つの商品に対して調べるようになった。
つまり、ユーザーは店舗やECなどを単独でみるのではなく、様々なチャネルを渡り歩くようになっているのだ。
こうした行動の変化を受け、企業は消費者の行動に合わせた戦略が求められるようになりた。販売チャネルを一つの絞るのではなく、複数のチャネルを用意して、ユーザーが買いたいと思ったタイミングで購入できるような仕組みを作ること、まさにオムニチャネル化が求められているのだ。
また、テクノロジーの進化により、顧客の行動を従来よりも正確に計測できるようになったのも一つの要因だ。あるチャネルでの購買データを他のチャネルでも活用することができれば、より最適な情報をユーザーに届けることができるようになる。
こうした「消費行動の変化」と「テクノロジーの進化」を背景に、オムニチャネルが注目されるようになってきているのだ。
5.オムニチャネルの事例①:Macy’s(メイシーズ)のオムニチャネル宣言
オムニチャネルという言葉が知られるきっかけは、アメリカの百貨店「Macy’s (メイシーズ)」が2011年に発表したオムニチャネル宣言だと言われている。
Amazonをはじめとしたネット専業通販の市場が成長したことで、アメリカの百貨店はショールーム化が進行するなど、長らく営業不振に悩まされていた。
そこでメイシーズは膨大なシステム投資によって、店舗と自社ECサイトの区別をなくした。そして在庫やお客さまの情報を一元化させ、顧客ニーズの取りこぼしをなくすことに注力しオムニチャネル化を推進。これによりブランドに対するロイヤルカスタマーが増加しただけでなく、グループ全体の劇的な在庫圧縮と売場の効率化が進み、会社の業績は見違えるように改善していきた。
6.オムニチャネルの事例②:無印良品のスマートフォンアプリ「MUJI passport」
良品計画の無印良品では、スマートフォンアプリ「MUJI passport」をオムニチャネル専用アプリとしてリリースしている。このアプリでは、ニュース配信、在庫検索など6つの機能を搭載しており、その中でも注目されるのがマイレージ型のポイントプログラムだ。
レジでスキャンするだけでマイルがたまる仕組みで、その気軽さから多くのユーザーを実店舗への誘導へとつなげた。
また、MUJI passportには、店舗の600m以内に入って操作するとマイルがたまる「チェックイン」の機能があり、チェックインした場所や時間帯に応じてクーポンなどの情報を届けることが可能になっている。
7.オムニチャネルの事例③:資生堂のオムニチャネルマーケティング
資生堂のオムニチャネルマーケティングの取り組みは、美と健康に関する企業と専門家によるコラボレーションサイト「Beauty&Co.」、総合美容サービス「watashi+」、百貨店などのリアル店舗で構成されている。
Beauty&Co.は、美に関する様々な情報を発信している。運営は資生堂がしていますが、資生堂色を全面にだしているわけではなく、美を提案することで美への意識を高めることをしている。このことで、ユーザーエクスペリエンスを提案し、化粧品を売るのではなく、市場拡大を目的にしていると考えられる。
watashi+は、資生堂を全面に出し、オンラインショップとO2Oを目的としている。インターネット上でセルフチェックができ、最後にはお化粧方法の提案とおすすめの商品の購入ができる。もう少し本格的に検討したいと思えば、ビューティーコンサルタントに相談できるようになっている。
それ以外にも、優秀なビューティーコンサルタントを紹介し、店舗でコンサルティングを受けられるようにしている。Beauty&Co.で、顧客エクスペリエンスを高め、watashi+で資生堂の商品をECによる販売と、店舗への集客を促している。
Salesforce Marketing Cloudを導入し、LINEとメールからの顧客行動も可視化
2015年7月2日にセールスフォース・ドットコムは資生堂にSalesforce Marketing Cloudの導入すると発表した。資生堂が保有する日本国内のWEBのリードは、ワタシプラスのEメールの対象会員が200万人以上、LINE公式アカウントの友だち数は1600万人を超える。
これらの莫大な会員データをSalesforce Marketing Cloudに繋ぎ込むことで、顧客一人ひとりの行動に即したタイミングで、情報を配信する事で顧客との信頼関係を強化し、美への発見から購買、リピートまでシームレスな流れを仕組み化しているのだ。
8.オムニチャネルを成功させるための6つのポイント
オムニチャネルは多大な効果を期待できますが、実践するには全社を挙げた改革が必須だ。
ここでは、以下6つのポイントを詳しく説明していく。
a.ロードマップの策定
b.顧客体験(UX)の最適化検討
c.社内の体制づくり
d.データ連携、システム統合
e.店舗用ハードウェアの刷新
f.効果検証とピボット(PDCA)
オムニチャネル化に成功した企業が共通して取り組んだ4つのポイントを確認しよう。
a.ロードマップの策定
オムニチャネルに限ったことではないが、新しいプロジェクトを成功させるにはロードマップの策定が欠かせない。
オムニチャネル化で対応すべき内容は、自社の状況によって大きく異なる。例えばECサイトが今なければ用意する必要がありますし、顧客管理システムが未導入であれば検討を進める必要がある。
また、新システムの導入や管理システムの統合は全社をまたいだプロジェクトとなるため、「誰が」「何を」「いつ」対応するかが複雑化しやすい傾向がある。
そのためスムーズに進めていけるよう、全体のロードマップを作成したうえで、順次進めていく必要がある。
また、自社を取り巻いている環境を分析することも大切だ。
・業界のなかで自社はどのポジションか
・自社の強み/弱みは何か
・競合動向はどうなっているか
・顧客のニーズや購買行動にはどのような特性があるか
など、自社を取り巻く環境の分析を行う必要がある。
b.顧客体験(UX)の最適化検討
オムニチャネル化で最も大事なことは、顧客の情報・購買行動を理解することだ。それが十分に理解できなければ、いくらチャネルを用意しても徒労に終わってしまう可能性が高くなる。
そこで有効なのがカスタマージャーニーの策定だ。カスタマージャーニーでは、対象にするペルソナを策定し、そのペルソナが購入するまでの一連の流れを可視化していきます。これにより、対象とする顧客はどのような状態で、何をきっかけとして商品の検討を始めるのかなど、仮説立てることができる。
c.社内の体制づくり
小売業の場合、
・店舗統括部門
・ネット運営部門
・カスタマーサポート部門
・IT部門
など、チャネルごとに部署が分かれていることが一般的だ。しかし、「すべてのチャネルを連携させて顧客にアプローチする」という理念を実現するには、この縦割りの組織運営がネックになる。
店舗運営部門からすると、ネットの施策に力を入れることで自分たちの売上がネット部門にとられてしまうという意識があるため、オムニチャネルやO2Oに取り組もうとする多くの小売・流通企業がこの課題に悩まされているのだ。
店舗での売上、ECサイトでの売上、といった販売チャネルごとでの囲い込み意識をなくすためには、根本的な組織改革が欠かせません。
オムニチャネルに取り組み成果を出している企業は、全社としての売上・メリットを最優先に考えるマーケティング部門を設立し、代表やCMO(Chief Marketing Officer、マーケティング担当役員)が責任者となり強力なリーダーシップを発揮することで、IT部門とも密に連携しながらビジネスモデルの改革を進めている。
d.データ連携、システム統合
オムニチャネルでもっとも重要なことは、各チャネルの情報、特に店舗とネットの情報を統合することだ。
商品情報、在庫情報、顧客情報、接客履歴、ECサイトでの商品閲覧履歴、過去の購入履歴、ポイント履歴など、すべての情報を統合し、店舗担当もネット運営者も参照できるようにすることで、店舗とネット間の相互送客がスムーズになる。
また、顧客のECサイトでの行動履歴と、店舗での購入履歴をまとめて管理することにより、チャネルを連携させたマーケティング戦略を立案、分析することができる。
e.店舗用ハードウェアの刷新
店舗とネットの情報を統合するには、店舗での購入履歴や行動履歴のデータ化が必須だ。また、データ連携をしても店舗で情報を確認するツールが必要になる。
既存のPOSシステムでは、顧客情報を取得するタイミングはレジカウンターでの会計時に限られていましたが、iPadなどのタブレット端末があれば、接客しながらそのお客様がどの商品に興味をもったか記録することができ、過去の接客履歴を参照することもできる。
f.効果検証とピボット(PDCA)
1~6までのすべてを対応しても、オムニチャネル化を実現したことにはなりません。ツールをつなぎ込み、データベースを整備しても、実際にそれがうまく稼働しなければなりません。
アメリカの老舗デパートメントストア「メイシーズ」も、当初はオムニチャネル化に成功したと言われていましたが、実際はその浸透に苦しんでいるようだ。
例えば、オムニチャネル化の施策として、店舗で商品を受け取れるようにシステムを統合しましたが、商品をピッキングするスタッフがおらず、顧客側としてもどこで商品を受け取ればいいのかわかりづらくなっていたため、全体のシステムが機能していませんでした。
よって、システムの統合後に、当初想定していた動きで現場が動いているかを検証する必要がある。
具体的には、最初に想定したカスタマージャーニーに照らし合わせ、想定外の動きをしていたら軌道修正をする必要がある。
9.最後に
IOT(Internet of Things)にあるように、あらゆるものがインターネットに接続する時代へと進歩していく。
このことは、顧客との接点は無限に広がることを意味している。オムニチャネルマーケティングは、今まで以上に、複雑で重要な意味を持ってきます。そのための、オムニチャネル戦略、体制、仕組みつくりへの投資は必要不可欠だ。
もし、いまのマーケティングがオムニチャネルになっていないと不安に感じたら、見直す良い機会かもしれません。